出会いは、それが予期せず、意外性を含んでいる方が、強く印象に刻まれるものである。
私の愛読書である『ダフニスとクロエ』との出会いは、美術館であった。展示の中に、シャガールによるこの物語の挿絵があった。私ははじめ、牧歌的で美しい挿絵に魅せられたのだが、挿絵に付された物語のあらすじを読んでいくうちに、いつの間にかこの物語の方に引き込まれていた。本来の「物語に付された挿絵」とは主従が逆転した形で、この物語と挿絵に魅了された。
『ダフニスとクロエ』を近くの図書館で借りて読んでみると、ますますこの物語が好きになり、この本を手元においておきたいと思った。岩波文庫から出ているので、すぐに見つかるかと思いきや、意外に見つからず、それならばと書店で取り寄せの注文をしたのだが、「品切れ状態」という返事であった。岩波文庫は、「絶版」にはせず、版を残したまま「品切れ状態」という扱いにするのだ、ということをそのとき書店員さんに教えていただいた。再版の可能性はあるということだが、それがいつになるかはわからない。簡単に手に入らないとなると、余計に欲しくなってしまうのが人情というもので、それから、何十軒の古本屋を巡ったかわからない。少し遠出したときには、その土地で古本屋を探すのが、ちょっとした楽しみにもなった。おかげで、いろいろな本との出会いが増えたが、肝心の『ダフニスとクロエ』とは、結局、会えずじまいに終わった。今なら、インターネットですぐに見つかってしまうのだろう。容易く手に入れてしまっていたら、新たな出会いもなかっただろうし、そもそもこの本に対する思い入れもこれほど強くならなかったかもしれない。まだ便利な時代になっていなかったことを幸運に思う。
思いがけない出会いを大切にしていきたいものである。
『ダフニスとクロエー』 ロンゴス作
羊飼いの青年ダフニスとクロエーの純朴な恋の物語です。牧歌的でゆったりとした時間の流れの中で、少しずつ進展していく、本当に美しいの一語に尽きるような物語です。いろいろな障害を乗り越えて、その恋が成就する、という、定番ではあるのですが、古代ギリシャ時代に書かれた作品で、バレエやオペラにもなっていて、三島由紀夫の「潮騒」は、この作品をモチーフとしているそうです。
上のエッセイのその後、なのですが、『ダフニスとクロエー』の文庫本は再版され、今は手元にあります。また、さらにしばらくして、シャガールの挿絵の入った大型本が出版されたのを知り、すぐさま手に入れました。シャガールの色彩鮮やかなリトグラフの挿絵は、この物語の雰囲気にそぐわしく、今も見るたび、心奪われます!