サモアの酋長ツイアビが語ったとされる演説をまとめたもので、そこでは徹底した文明批評がなされています。
例えば、「考えるという重い病気」の章では、「日が美しく輝けば、彼らはすぐに考える。『日はいま、なんと美しく輝いていることか!』彼らは切れ目なく考える。『日はいま、なんと美しく輝いていることか』これはまちがいだ。大まちがいだ。馬鹿げている。なぜなら、日が照れば何も考えないのがずっといい。かしこいサモア人なら、暖かい光の中で手足を伸ばし、何も考えない。頭だけでなく、手も足も、腿も、腹も、からだ全部で光を楽しむ。」頭でっかちな文明人、現代人は、痛いところをつかれたなと感じるのではないでしょうか。また、「たくさんの物がパパラギ(=白人のこと)を貧しくしている」の章では、「少ししか物を持たないパパラギは、自分のことを貧しいと言って悲しがる。食事の鉢の他には何も持たなくても、私たちならだれでも、歌を歌って笑顔でいられるのに、パパラギの中にはそんな人間はひとりもいない。~中略~ ヨーロッパ人らしいヨーロッパ人ほど、たくさんの物を使う。だからパパラギの手は休むことなく物を作る。それゆえ、パパラギの顔はたいてい、疲れていて悲しそうだ。」物がなくても心が豊か、といった類の途上国に対するステレオタイプな見方は余りに短絡的で、私は好きではありませんが、しかし、私たちが物にとらわれているのは一面の真実ではあるでしょう。
冒頭に、この本はツイアビが語ったと「される」演説集である、と書いたのは、実は、ツイアビは架空の人物で、演説はフィクションだからです。しかし、そんなことはこの際どっちでもいいことで、読み手に突きつけられた皮肉たっぷりの文明批評は手厳しくもあり、また痛快でもあります。