本書の著者の笠原先生は、大学数学の優れた教科書を多く執筆しておられて、サイエンス社の『微分積分学』は1974年の発刊であるにもかかわらず、今もなお大学教養の微積の定評のある教科書の一つである。この本が、灘校で中2の担任をしているときに教室のロッカーの上に無造作に放置されていたのにびっくりしたのが懐かしい。(数学研究部の生徒であろうか?)私は、上記の教科書を大学1年の教養の授業で用いたのだが、何と著者の笠原先生の直々の授業であった。初回の授業で、「この教科書の練習問題には簡単なものだけでなく、1週間ぐらいは考え続けてほしいような難問もさりげなく含まれているので、そのつもりで取り組んで下さい。どの問題が難問かは言いませんが、フフフ」と仰った。大学数学への取り組み方を、それこそ”さりげなく“伝えられたのかなとも思う。私自身も、1週間考え続ける、そういうものなんだな、と妙に納得した覚えがある。
さて、今回紹介の本は、教科書ではなく対話形式で、概念の本質をつかませることに主眼がおかれている。北井志内教授の学生に対するちょっと毒のある(!)説明は、実は本当に教育的でキタイ以上であること請け合いである。例えば、「君たち、どうもdxと書けば小さいもの、どんどん小さくなって行ったもの、という感じが抜けきれないので困りますねえ。何もdx, dy, dzは小さくないのです。・・・(この後、接平面の流通座標としての記号であるという説明がある)」とか、「0分の0になるとか不定形とか言った用語法そのものが18世紀的なのでして、それを20世紀の今日まで墨守している本があるとすれば、悪口を言われても仕方ありませんね。」とか。一度、高校数学の微積を習得した上で、次のステップに進む際には、大変勉強になると思います。複素解析やベクトル解析まで書かれていて、大学数学を学ぶ際の道しるべとしてとても参考になり、大学での数学をしっかり身につけたい人にとっても、かなりのお勧めです!