『素数の音楽』マーカス・デュ・ソートイ著

 素数には、どんな規則性があるのか?こんな一見素朴とも思えるような疑問に、数学者たちは未だ答えを見つけることができていません。

 素数をめぐる数学者たち格闘を軸に、数学の発展の歴史を描いています。数学の内容については、極力数式を避け、比喩的な表現で説明されています。例えば、素数の規則性を理解するカギとなるリーマン予想(未解決問題)については、次のように表現されています。

「数学者たちは、何百年にもわたって素数の音に耳を傾けてきた。しかし、聞き取れたのは無秩序な雑音だった。あたかも数学という譜面にでたらめに置かれた音符のように、素数にはこれといった調べがないように思われた。 (中略) ピタゴラスは、壺を叩くことで、分数列の裏にある音楽的調和を明らかにした。素数の巨匠メルセンヌとオイラーは、和声に関する数学理論をまとめた。しかし、素数と音楽のあいだに直接的な関係があるとはだれも考えなかった。その音楽を聴き取るには、19世紀の数学的な耳が必要であったのだ。リーマンが作った架空の世界から単純な波が生まれ、それらが集まったときに、はじめて名状しがたい素数のハーモニーを再生できるようになったのだ。」

 数学的な内容に関しては、このようにフワッと表現されているので、読み手もフワッと理解したつもりになって、読み進めていけばいいのではないかと思います。おそらく著者の表現の方法からも、数学的に厳密な理解は求めてはおらず、数学の歴史的な流れを掴めるようにと意図されているように思われます。

 純粋数学に人生をささげた数学者がたくさん出てきて、彼らの生き様やエピソードも面白いのですが、最後の方は、素数の応用的な側面、特にインターネット上の暗号などのセキュリティーシステムとも深く関係している(していた)ことなども記されていて、本当に盛りだくさんの内容です。

 文庫本ですが、600ページの大作です。時間のあるときに、じっくり読み進めてみてもらえたらと思います。